Topics 2015.04.29

惑星大気の行方を探る

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 地球や惑星の大気は、太陽紫外放射や太陽風(太陽から常時吹き出す超音速のプラズマ流)の影響を受けて、宇宙空間に絶えず流出しています。惑星が保有する大気量や組成比は、この宇宙空間への大気の流出によって、数億年スケールの長い時間をかけて変遷してきたと考えられています。地球物理学専攻の太陽惑星空間系(C領域)では、衛星観測・地上観測・数値シミュレーションを組み合わせて、この惑星大気の宇宙空間への流出を研究しています。

 火星大気中に存在する酸素が1億年間で全て失われるほどの大きな流出率を、1988年打ち上げの旧ソ連のフォボス探査機が観測して以来、火星大気の宇宙空間への流出は重要な科学課題として注目されてきました。日本初の火星探査ミッション「のぞみ」は、この大気の流出現象や超高層での太陽風の相互作用過程を調査すべく1998年に打ち上げられ、東北大学C領域はプラズマ波動観測装置や紫外線撮像分光計の開発を担当しミッションの中核を担いました。しかし残念ながら飛行中のトラブルにより、「のぞみ」探査機の火星周回軌道への投入は成功に至りませんでした。

 2000年代に入ってからの欧米の火星探査機による地形解析や水和鉱物の観測等によって、火星には、その歴史の初期に大量の液体の水を湛えた時期があったことが明らかとなりました。しかし、なぜそのような湿潤な環境から、現在の寒冷乾燥した環境へと変貌を遂げたかは未だ良くわかっていません。この劇的な環境変化を引き起こした要因の候補として、宇宙空間への大気の流出が注目されています。

 東北大学C領域は、「のぞみ」後も国内外の衛星ミッション・地上観測・数値シミュレーションによる研究を通して、この惑星大気の流出機構とその惑星環境進化への影響の理解に挑んできました。近年では、2013年秋打ち上げのJAXAの小型科学衛星1号機「ひさき」や、同年冬打ち上げの米国NASAの火星探査ミッションMAVEN(Mars Atmosphere and Volatile EvolutioN)に参画し、大気流出率や流出機構の研究を進めています。また、前回のトピックス記事で取り上げた地上望遠鏡プロジェクト「PLANETS」も、惑星流出大気の観測を主目的の1つに掲げて開発を進めています。

 「ひさき」衛星は、2013年9月14日に内之浦宇宙空間観測所にてイプシロンロケットにより打ち上げられました。東北大学C領域は「ひさき」ミッションの立案時からコアメンバーとして参画しており、衛星に搭載されている極端紫外分光装置を東京大学やJAXA宇宙科学研究所と共同で開発しました。「ひさき」衛星は現在も順調に観測を継続しています。「ひさき」衛星は打ち上げ後、木星を継続的に観測し、2014年3月に金星や火星の観測を開始しました。強い磁場を持たない金星では、火星と類似の機構で大気が宇宙空間に大量に流出していると予想されていますが、「ひさき」衛星はその流出率の上限値を押さえるとともに、超高層大気における準周期的な変動を捉えました。この準周期的な変動は、現時点ではその成因は分かっていませんが、振幅が大きく、宇宙空間への大気の流出を理解する上で重要と考えられます。この準周期的な変動を理解する為に、「ひさき」衛星は金星を2015年5月から再度連続的に観測する計画です。

 米国NASAの火星探査機MAVENは、2013年11月18日にケープカナベラレルから打ち上げられました。MAVEN探査機は、火星大気の宇宙空間への流出の理解を目的としています。写真は打ち上げ直前のMAVEN探査機を背にした、MAVENチームの集合写真です。我々のグループは、名古屋大学太陽地球環境研究所・JAXA宇宙科学研究所・ドイツマックスプランク太陽系研究所(MPS)と協力して、MAVEN衛星の科学チームの一員として参画しています。探査機の打ち上げ直前には、MAVEN関係者とその家族を対象としたブリーフィングがケネディスペースセンターにて行われましたが、そこでは米国国歌斉唱の後、科学目的を説明する研究結果として我々のグループの数値シミュレーションが唯一使用されました(写真)。東北大学C領域では、惑星大気・プラズマの幅広い高度域における数値シミュレーションを展開しており、この数値シミュレーションの分野でも世界的に高い競争力を持っています。東北大学C領域では、頭脳循環プログラムなどの支援を受けて、フランス大気環境宇宙観測研究所(LATMOS)・ドイツMPS・アメリカハワイ大学天文学研究施設(IfA)などの海外機関と密に連携しながら、数値シミュレーション・衛星観測・地上観測を組み合わせて、惑星大気の宇宙空間への流出とそれが惑星環境の進化に果たす役割を明らかにしていきます。

(文責 太陽惑星空間系領域 寺田直樹准教授)

関連リンク 惑星大気物理学分野

関連リンク JAXA ひさきミッション

関連リンク NASA MAVEN

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(Last figure, copyright by JAXA)

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