Topics 2015.03.20
惑星・系外惑星専用望遠鏡計画の進行
地球物理学専攻の太陽惑星空間系（C領域）では、口径60cmカセグレン・クーデ望遠鏡「T60」を福島県飯舘観測所からハワイ・マウイ島ハレアカラ観測所へ2014年9月に移設しました。現在T60を用いて、木星、火星や系外惑星の連続観測を精力的に行っています。また、新たな口径1.8mオフセット鏡望遠鏡を開発・製造する計画「PLANETS」を国際共同で進めています。
T60は、1999年に福島県飯舘観測所に設置され、国内唯一の惑星観測専用望遠鏡として観測と教育活動に用いられてきました。しかし、2011年3月11日の震災に伴う原子力発電所事故により、空間放射線量が毎時6.5マイクロシーベルトに達し、長時間滞在を要する望遠鏡観測が困難となりました。
このため望遠鏡の代替地を検討し、標高3000mで水蒸気が少なく、晴天率の高いハワイ・マウイ島ハレアカラ山頂が最適と判断しました。2011年11月にこれをハワイ大学に打診したところ、震災復興の助けにもなれば、と快諾を得ました。以来、望遠鏡を飯舘村からハレアカラ山頂へ移設するプロジェクトを開始しました。工事許可を得るために予想外の困難にも直面するなど、紆余曲折がありましたが、その都度東北大学スタッフに加えてハワイ大学や現地の業者と協力して問題を克服し、移設プロジェクトを推進してきました。
2014年9月8日には、ハレアカラ山頂においてT60の移設完了を祝して観測施設の開所式が催されました。この式典には東北大学理学研究科から早坂研究科長、石田事務部長、小原惑星プラズマ・大気研究センター長はじめ多くの教員と事務スタッフが臨み、またハワイ大学からヘイシンガー天文研究所長やマクラーレン同副所長、設計・建築工事業者など約30名の関係者が集いました。式は、先住民代表デーン氏の詠唱による儀式に始まりました。古来よりハワイではお祝いごとに使われるティの葉と神聖な水を用いられ、辺りは厳かな雰囲気に包まれました（その葉は今も大切に望遠鏡設備に保管してあります）。また、同日午後に科学協力合意書の署名式が行われました。早坂理学研究科長とヘイシンガー所長により合意書に署名がされ、固い握手が交わされました。
震災後に稼働を停止した飯舘の望遠鏡が、ハレアカラ山頂のぴかぴかの観測ドームに移設され、再び観測を開始したことに深く感じるものがあります。飯舘村の方々とのつながりを今後も大切にしつつ、ハレアカラに移設された望遠鏡を用いて新たな研究成果を創出することを目指し、今後は装置開発や観測に力を注いでいこうと決意しています。
PLANETSは、口径1.8mのオフセット主鏡を用いたユニークな望遠鏡計画で、その特徴は望遠鏡内部の光の散乱を極限まで低減させることにあります。通常のメーター級大口径や中口径反射望遠鏡では、その構造上2次鏡の支持部分などにより入射光が散乱され、コントラストの高い像を得ることが困難です。私たちの観測対象である惑星や衛星の大気散乱光は、惑星や衛星本体の太陽散乱光に比べて微弱なため、望遠鏡内部の光の散乱を低減することはとても重要です。PLANESで開発・製造される望遠鏡は、オフセット鏡の利点を生かし、望遠鏡支持構造により入射光が散乱することを極限まで低減しています。
この計画は、東北大学、ハワイ大学、ドイツ・ケーペンハウワー研究所などの国際共同で推進されています。特に、東北大学は1.8m口径主鏡の製造に貢献しました。この主鏡はクリアセラムと呼ばれる温度変化や外力による膨張・変形が極めて小さい特殊ガラスを用いています。この主鏡ガラス材を、2010年から2011年にかけて日本で製造し、その後にアメリカへ輸出して荒削りを行いました。
現在、このPLANETSの主鏡研磨、構造設計、建物設計、工事許可申請、観測装置開発、運用体制検討などの様々な作業が国際共同のもと進められており、完成は約2年後の予定です。完成の暁には、PLANETSによるコントラストの高い観測データを用いて、これまで捉えられなかった惑星や衛星周辺の微弱光を捉えることが可能となり、大気流出プロセスや中性大気－磁気圏プラズマ相互作用の理解が深まることが期待されます。PLANETSは国際共同で運用しますが、観測ターゲット毎にタイムシェアリングを行い、たとえば木星や火星の観測好機は連続データ取得が可能となる予定です。このデータを生かして、惑星・衛星大気中の時間と空間変動現象を明らかにしていきます
（文責 太陽惑星空間系領域 坂野井健准教授）
関連リンク 頭脳循環プログラム
関連リンク 惑星プラズマ・大気研究センター
