Topics 2016.06.07

日射量の長期変動

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図1. 東北大学大学院理学研究科に設置されている日射計(短波放射計、左、中央)および長波放射計(右)

 大気と海洋、そして陸域で構成される地球の表層は、太陽から届く短波放射を吸収し、自ら宇宙空間に長波放射を放出します。その結果、1年間を通して見れば、地球の気候は比較的安定しています。地球表層で吸収される短波放射の地理的分布の違いやその季節変動は風を生み出し、雲を作り、雨や雪を降らせる原動力になります。

 地表面に到達する短波放射エネルギーが日射量です。1957~1958年の国際地球観測年(International Geophysical Year)を契機に世界中の気象官署で日射量の観測が開始されました。そのデータから、1980年代までの間に世界中の日射量が数パーセント減少していることが明らかになりました。その後、ヨーロッパや北アメリカおよび日本では日射量の減少は止まり、回復しました。一方、中国では1990年頃まで減少が続き、その後一時的に回復しましたが、2000年頃から再び減少に転じています。また、インドでは、1960年代以降、現在まで減少傾向が続いています。

 このような日射量の長期変動の要因として様々なものが候補としてあげられますが、人間活動に伴う大気中エアロゾルの増加が多様なメカニズムを通じて影響しているものと考えられています。たとえば、エアロゾルが増加することにより、太陽放射を散乱する効果が強まるので、大気が太陽放射を反射する能力が高まり、その結果、日射量が減少するということが考えられます。また、エアロゾルは雲凝結核になるので、雲粒の数濃度が増加するなど雲を変質させ、雲の反射率を増加させたり、雲の寿命や雲量にも影響を及ぼしたりすることが指摘されています。

 最近の研究から、これらのエアロゾルの働きは地域によって異なることが明らかになってきました。たとえば、中国では日射量が減少した1990年頃までの間に雲量も減少したことが知られています。普通に考えれば、雲量が減少すれば日射量は増加することが期待されますので、これは一見、矛盾した現象であると言えます。しかしながら、詳細な解析の結果、エアロゾルが増加したことにより、雲量の減少による日射量の増加を補うだけの効果があることが示されました。また、雲がある場合でも、雲底下にブラックカーボンのような光を強く吸収するエアロゾルがあると、日射量を減少させることも明らかになっています。一方、大気汚染の影響を受けない地域でも日射量の変動は見られており、この場合にはエアロゾルが雲を変質させる効果によって日射量に影響を及ぼしていると考えられています。

 日射量とエアロゾル、雲の関係は複雑で、たとえば、厚い雲が多い地域であまり光を吸収しないエアロゾルが増加しても、その影響は小さくなります。また、エアロゾルが凝結核として雲をどのように変質させるのかということは、エアロゾルの種類やその混合状態に大きく依存するので、これによる日射量への影響の定量的な評価はもっと難しくなります。今後、さらなる研究の進展が望まれます。

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図2. 中国で観測された日射量の長期変動

(文責:早坂忠裕教授 大気海洋変動観測研究センター気候物理学分野

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