Topics 2021.09.14

過去の気象を再現する

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図1.2018年7月5-7日の積算降水量。左図が実際の観測(気象庁解析雨量)、中図が既存の再解析(気象庁55年長期再解析。格子間隔約50km相当で全球を対象としたもの)、右図が格子間隔5kmの領域再解析の再現結果。

流体地球物理学講座では、日本域を対象に過去から現在に至る三次元的な気象の再現(領域再解析)に取り組んでいます。ここで、再解析とは、実際の大気を測定することにより得られた観測データと気象を支配する物理法則に基づいて大気の振る舞いを計算する数値モデルを組み合わせながら、過去に遡って大気の状態を推定することです。再解析はこれまでにも日本の気象庁をはじめとして世界の主要な気象機関で実施されてきており、現業や研究において広く活用されています。しかしながら、これらは地球全体を対象としたものなので最新のものでも格子間隔30-50 km相当と粗く、豪雨などの顕著現象や細かな地形の影響を十分扱うことがきません。そこで、我々は、対象領域を日本域に限定しながらも、水平格子間隔を5kmまで細かくした「領域再解析」システムを構築しました (Fukui et al., 2018)。

図1に2018年7月5-7日の積算降水量の再現結果を示します。既存の格子間隔50km相当の再解析では、西日本に大雨が降ったことは再現できますが、細かい強弱の分布までは再現できません。我々の構築した格子間隔5kmの領域再解析では、観測にみられるような強い降水の詳細な分布を再現しています。高解像度の再解析の有効性を示す結果を得ることができました。本領域再解析では、特に気候変動の影響を精度よく求めるための工夫を施しています。長期間の一貫性を保つために、一般に再解析では数値モデルや観測データを取り込む手法を統一させます。我々は、さらに、用いる観測データを地上気圧観測やラジオゾンデによる高層観測といった長期間一貫して入手できるものに絞りました。ここで、用いる観測を減らしすぎると、うまく再現性向上に繋がらない可能性も出てきます。図2は、観測と数値モデルを組み合わせる領域再解析と観測を用いて再現した結果と数値モデルだけで再現した結果について、地上天気図に描かれる海面較正気圧の再現誤差を示しています。実際に再現された気圧配置を見ると各々で大きく異なり、観測を用いることで効果的に誤差を軽減できていることがわかります。限られた観測ですが、それらを用いることで再現性が向上することが確認できました。

現在、我々は過去60年をカバーするような領域再解析を実施しています。領域再解析によって得られたデータは、これまでに進んだ気候変動の影響を評価したり、過去の豪雨・豪雪などの顕著現象を研究したりするために活用していきます。さらに、防災や様々な産業において気象情報の高度利用を検討する際に役立つことも期待されます。また、領域再解析を作成するシステムの改善も重要な課題です。限られた観測からより効率的に情報を引き出す手法を模索する必要があります。数値モデルも改善すべき点を沢山抱えています。一例として積雪の扱いです。現在我々が用いている数値モデルは、積もった雪の相変化や太陽光の反射の仕方の変化に伴った、大気と陸面とのエネルギー等のやり取りを十分考慮できていません。積雪過程を考慮することで、地上気温などの推定誤差の減少が期待されます。また、積雪量を把握することは、水資源管理にとって有効な情報を得ることにもなります。領域再解析システムは、気象・気候予測に用いられるものに基づいており、こうした改善のための知見は気象・気候予測向上にも資するものとなります。この領域再解析を基軸として、様々な研究へと発展していくことが期待されます。

謝辞: 領域再解析の実施は東北大学と気象庁気象研究所の共同研究として行っています。

参考文献:

Fukui, S., T. Iwasaki, K. Saito, H. Seko, and M. Kunii, 2018: A feasibility study on the high-resolution regional reanalysis over Japan assimilating only conventional observations as an alternative to the dynamical downscaling. J. Meteor. Soc. Japan, 96, 565-585. DOI:10.2151/jmsj.2018-056.

文責: 福井 真 特任助教(流体地球物理学講座)

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図2 海面更正気圧場の誤差の推移。左図の黒線が従来型観測のみを用いた領域再解析のもの、灰色線が観測を用いなかった実験のもの。右図が各々で再現された海面更正気圧場(等値線)及びその誤差(陰影)の例。下が領域再解析、上が観測を用いない実験の結果。

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