Topics 2017.08.09

観測ロケット実験による極域電離大気流出過程の研究

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図1:NEI/PWM電子回路部の較正試験の様子

観測ロケットは、高度約80 km以上の電離圏を直接観測できる唯一の観測手段です。中性気体で構成される下層大気と無衝突プラズマが占める磁気圏とをつなぐ領域である電離圏では、中性気体とプラズマが共存し、衝突を介して互いに影響を及ぼしあっています。宇宙地球電磁気学分野では他大学・研究機関の研究者と共同して、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所の実施するロケット実験に1970年代から参画しています。

2017年12月にノルウェーのスバルバード島から打ち上げられる予定のSS-520-3号機観測ロケット実験は、地球の極域・カスプ領域で生じる電離大気流出過程の解明を目的としています。カスプとは、磁気圏と太陽風との境界面に磁気的に繋がっている領域を指しています。カスプに太陽風のプラズマが直接流れ込むことに起因して電離大気が加熱され、宇宙空間に流出していく現象の存在が知られています。過去の研究からは高度数百縲恊柏輒mで発生するプラズマ波動が重要な役割を果たすとされていますが、どのようなメカニズムで電離大気が加熱されているかは未解明です。SS-520は宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所が有する観測ロケットの中でも最も高高度まで飛翔できる性能を有しており、今回のロケット実験では最高到達高度が約800 kmと計画されています。

宇宙地球電磁気学分野では、SS-520-3号機に搭載されるインピーダンスプローブ・プラズマ波動モニター(NEI/PWM: Number density of Electron measurement by Impedance probe/Plasma Wave Monitor)の開発(図1~3)と、波動粒子相互作用解析装置(WPIA: Wave-Particle Interaction Analyzer)を担当しており,その開発・地上試験には大学院生も参加しています。電子密度を高精度に計測するインピーダンスプローブは、大家寛名誉教授により開発されて以降50回を超える観測ロケット実験や科学衛星に搭載されて、数多くの研究成果を挙げています。SS-520-3号機ロケット実験では、電離大気加熱メカニズム解明の基礎情報となる背景電子密度の高精度計測と、300 Hzから20 MHzの自然プラズマ波動を計測します。WPIAはkHz帯のプラズマ波動と電離大気との相互作用を直接観測することをねらう観測装置で、ジオスペース探査衛星「あらせ」にも搭載されています。カスプ領域でのプラズマ波動とイオンとの相互作用の直接的な証拠をとらえることができれば、世界初の画期的な成果となります。SS-520-3号機ロケット実験によって極域電離大気が流出する現場での詳細な観測結果が得られ、電離大気加熱・加速メカニズムの解明が期待されています。

(文責 太陽惑星空間講座宇宙地球電磁気学分野 熊本篤史准教授・加藤雄人准教授

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図2:NEI/PWM電子回路部の振動試験準備の様子

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図3:インピーダンスプローブ(収納状態)の振動試験準備の様子

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