Topics 2017.12.07

プレート沈み込み帯ではなぜ地震活動が活発なのか?

Top-J_AOB_1712.jpg日本の国土面積は世界の僅か0.25%を占めるにすぎませんが,全世界で発生する地震のうち実に20%が日本で発生しています.日本列島は4つのプレートが衝突しているため,その相互作用で地震活動が活発だと説明されることが多いですが,本当にそれだけなのでしょうか?沈み込む海のプレートと上盤側の陸のプレートの境界で地震が活発に生じるのは理解がしやすいですが,沈み込み帯の内陸や沈み込んだプレートの中で地震活動が活発な理由は必ずしも自明ではありません.

ある断層で応力が強度を上回ったときに地震は発生すると考えられます.地震活動はかなり不均質に生じていることから,地震活動の活発な場所は応力が集中しているか,あるいはその場所の強度が他より低いと推理されます.このような地震発生のメカニズムを理解するためには,地下の構造を詳しく知ることが重要です.

医療ではX線や超音波を使って人体の中身を詳しく調べるCTが活躍していますが,地震学でもほぼ同じ手法を地震波に適用して地下を詳しく調べています.図1は,そのようにして調べた東北地方の横断面です.青い部分と赤い部分は,それぞれ地震波の伝わる速さが速いところと遅いところ,つまり固いところと柔らかいところを表しています.白丸は地震の震源分布を示します.沈み込んだ太平洋プレートが青い領域として綺麗に示されていますが,その上に赤い領域が火山の下まで連なっていることがわかります.この赤い領域では,地震波の伝わる速さが遅いだけなく,地震波の減衰も激しいことがわかっており,これらのことから,この赤い領域では岩石が部分的に熔けてマグマとなっていると考えられています.しかし,このような温度圧力条件下で岩石が熔けるためには水が必要であり,その水は沈み込んだ太平洋プレートから供給されたと考えられます.

このマグマは上昇していき,やがてモホ面に達します.このような状況を示したのが図2です.マグマは次第に冷やされて,一部は固化します.このとき,含まれていた水が放出されることになり,その水が地表に向かって上昇していくことになります(図2の青色の波状矢印).このような場所での下部地殻は高温と水の影響でまわりより軟化して変形しやすくなることが期待されます.そうなると,そこに歪が集中しますが,その直上の上部地殻は脆性的な性質を保っているので,そこに応力が集中し,地震が発生しやすくなると考えられます.これが東北大学が提案した沈み込み帯での内陸地震発生のモデルでした.

10年くらい前まではこの応力集中こそが内陸の地震発生の主要原因だと考えておりましたが,このモデルでは東西圧縮の応力を局所的に増幅しているだけなので,東西圧縮の力が弱まれば地震活動は低下することが期待されます.ところが,2011年東北地方太平洋沖地震によって東北地方は東西に4mも広がり,内陸の東西圧縮の応力が弱まったにも関わらず,地震活動が逆に活発化した場所がいくつかあります.また内陸の地震を良く調べてみたところ,地震発生時の強度がかなり低いケースが多いことがわかってきました.これらのことから,応力の時空間変化よりも強度の時空間変化のほうがで地震発生に密接に結びついている可能性が高いことがわかってきたのです.

このような強度の時空間変化をもたらす原因はまだよくわかっていませんが,図2の青色の波状矢印で示した水が,その強度低下の主要原因ではないかと考えられるようになってきました.水は深部から浅部に上がってきますが,深部では非常に高圧下にありますので,それが上昇して断層に入ってくると,その高圧水が断層を押し広げようとするため,結果的に断層が滑りやすくなります.これはちょうど濡れたお盆にお椀を置き,お盆を傾けてお椀に暖かい味噌汁を入れるとお椀の下の空気が膨張してお椀が滑り落ちやすくなるのと同じ原理です.プレート沈み込み帯で地震が多いのは,海洋性プレートによって水が深部に持ち込まれ,それがその後上昇してくるからだ,と考えることができます.

我々は2010年から鳴子周辺で50点の臨時地震観測網を構築して観測研究を行い,この仮説を支持する結果を得てきています.さらに,東北大学をはじめ,さまざまな研究機関の研究により,プレート沈み込み帯では,内陸地震のみならず,プレート境界で起こる地震も,沈み込んだ海洋性プレート内で起こる地震も,この高圧の水が断層に入ってきて強度を下げることにより地震が起こりやすくなっている可能性が高いことがわかってきました.

さらに我々は2011年東北地方太平洋沖地震後に地震活動が活発化した秋田県や山形・福島県境付近に80点の臨時地震観測網を2015年から構築しました.このデータを解析することにより,東西圧縮が弱まったのになぜ地震活動が高まったのか,その原因を解明し,また地震を起こす断層の強度を定量的に明らかにすることができると期待しています.

(文責: 沈み込み帯物理学分野 内陸地震研究グループ 松澤暢教授)

Fig1-J_AOB_1712.JPG 図1.地震波速度トモグラフィによる東北地方の横断面.

 Fig2-J_AOB_1712.JPG

図2.東北地方の内陸地震の発生モデル.

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