Topics 2018.09.11

2018 火星巨大ダストストーム

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図. MRO搭載MARCIによって撮影されたダストストーム発生前後の火星.  (copyright by NASA)

人類が火星を探査する意義は幾つかあります。最もアクセスしやすい地球以外の惑星であること。生命や生命を保持しうる惑星環境の起源・進化を解明するうで重要な兄弟星であること。また、似て非なる兄弟星の探査を通じて、我々の地球をより深く理解することにつながります。火星、地球、そして金星といった地球型惑星が、かくもバライエティに富み複雑な大気・地質体系をもつに至った進化過程は非常に興味深いです。

大気圧が6mbarと地球の1/100しかなく、全球の平均気温が-58度、水蒸気もごくわずかしかない乾燥寒冷な火星において、大気中を浮遊するダストは温室効果をもたらす重要な役割を担います。地球では大気を駆動する熱的効果を水蒸気の温室効果や潜熱が担っていますが、火星ではそれを大気中の浮遊ダストの放射効果が担っています。そのため、ダストは火星の大気を支配し、火星全球の気候を大きく変化させます。ダストや水蒸気の大気への供給、輸送、そして背景の大気への影響を理解することは、大気物理の普遍的な理解だけでなく、将来の有人探査にとって重要な情報となります。

火星において最も特徴的な大気現象の一つに、このダストがまきあがる砂嵐(ダストストーム)があげられます。ダストストームは、年間を通じて頻繁にみられる日常的な気象現象です。ときにそれらは数日内により大きなストームに成長し、さらに全球を覆うグローバルダストストームにまで発達します。これらのストームがどうやって発生し、どのように全球スケールにまで発達するのか、未だはっきりと解明されていません。問題は、従来の火星探査機は極軌道衛星であり、ダストが大気へ供給される様を十分に高い時間分解能で監視できなかった点にあります。日本の地球気象衛星ひまわりのような観測が必要なのです。私たちは、日本の将来火星探査計画でこれを実現すべくMMXミッションに参画しています。

ダストストームによってもちあげられた大気は、大気を温めるだけでなく(ときに大気温度を40度も上昇させます)、水蒸気を高高度に輸送することが最近になって明らかになりました。高高度に輸送された水蒸気は、太陽紫外線により光解離されることで超高層に拡散し、水素・酸素原子として宇宙空間に消失することとなります。この間、たったの数週間〜数ヶ月。下層大気中の気象現象の効果がこの短いタイムスケールで宇宙空間にまで到達するという地球では起こりえないことが火星では起こります。

地球では起こりえない全球スケールの砂嵐は、およそ火星の3-4年(地球の6-8年)に1度起こることがわかっています。今年2018年6月、NASAの着陸機オポチューニティ上空で発生したストームは急激な成長をみせ、1ヶ月内についに全球を覆いつくしました。2007年来の全球スケールのダストストームです。この2018年に発生したグローバルダストストームを、現在周回している複数の欧米火星探査衛星が協力して観測しました。ダストストームが発生した下層大気から、水が宇宙に散逸する超高層まで複数の探査機がくまなく観測するという好機は、今回が初めてです。

そこで鍵となるのは、下層と超高層をつなぐ中層領域(高度40km〜160km)で何が起きているか。ダストや水蒸気を超高層まで輸送するメカニズムやプロセスの理解に重要です。しかし、中層大気は下層や超高層に比べ観測が圧倒的に不足しており未解明な点が多い領域です。私たちの研究室では、欧米の火星探査チームに参画して飛翔体探査ミッションに貢献するだけでなく(#02トピックス記事)、独自の地上観測を展開して中層領域の観測を実施しています。探査ミッションをサポートし、火星における鉛直物質輸送の解明に貢献しています。日本が主導する東アジア・北米・ヨーロッパ・チリの諸国が協力して進めている大型の電波望遠鏡ALMA、ハワイ・ハレアカラ山頂にある東北大学観測施設の独自望遠鏡(#01トピックス記事)。ユニークな地上観測網を使って、15年ぶりに地球に大接近した火星に挑んでいます。今、私は本学の大学院生らとともに火星中層大気の日々変動を監視するため、ハワイにやってきています。あいにくハリケーンに見舞われ、山嶺のロッジで待機中ですが、静かにハリケーンが過ぎ去るのを待っています。明日には山頂に向かえそうです。2018年8月

文責 惑星大気物理学分野 中川広務

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図2. ダストストームが全球に広がっていく様子. (copyright by NASA)

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