Topics 2019.07.31

木星と氷衛星がなす系を生命環境として理解する

私達「太陽惑星空間系グループ」の最終目的の1つは、惑星、衛星、それらの周囲の宇宙空間で構成される系を、生命環境として普遍的に理解することです。私が特に注目しているのが、木星とその衛星群がなす系「木星系」です。氷でてきている衛星エウロパ、ガニメデは、内部に液体の水の海「地下海」が存在する可能性が非常に高いです。しかし、地下海の発生年代や、地下海に存在する可能性がある生命が必要とするエネルギー源等、生命環境としての本質は全くの未解明です。

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図. 木星の氷衛星エウロパの地下海のイメージ(cNASA)

私達は、2030年代、欧州宇宙機関やJAXAと共同で、木星系に探査機JUICEを送り込み、氷衛星表面や周囲の宇宙環境を精密に測定します。私の研究では、JUICEによる探査に向けて、探査機、宇宙望遠鏡による遠隔観測、実験室実験を緊密に連携させ、地下海の発生年代や、地下海へのエネルギー輸送を解き明かそうとしています。

その鍵となるのが、氷衛星を取り囲む宇宙空間のプラズマです。木星は強力な固有磁場を持ち、太陽系最大の磁場の勢力圏「磁気圏」を形成します。磁気圏は木星と一緒に自転しています。木星のもつ磁場や自転がエネルギー源として働き、磁気圏内のプラズマが加速・加熱されます。そのプラズマは、氷衛星に照射され、表面物質に化学変化をもたらします。変化した一部の表層物質は、地殻変動などを経て地下海に輸送されます。太陽から遠い木星系の宇宙空間において、地球と比較して太陽光のエネルギーは弱くなる一方、磁気圏プラズマは主要なエネルギー源の1つになります。

しかし、磁気圏は広大で、プラズマは場所場所で日々劇的に変動しています。木星の自転や磁場に加えて、太陽からの高速プラズマ流「太陽風」も変動要因の1つと示唆されていますが、関連する変動を捕捉できるほど十分な長さの観測がほとんどありませんでした。そのため、太陽風―木星磁場・自転―磁気圏―氷衛星表層―地下海という巨大な木星系の中で、どのようにエネルギーが輸送されるかは未解明でした。

私達はまず、宇宙望遠鏡を用いて、木星磁気圏内のエネルギー輸送の制約に取り組みました。開発や運用に参加してきた、JAXAの惑星専用宇宙望遠鏡「ひさき」衛星を用いて、木星磁気圏のプラズマや、磁気圏と磁場を介して結合している極域のオーロラ発光を世界で初めて長期連続監視しました。これにより、劇的なプラズマの時間変動を捉えることができました。また、ひさきと同時に、ハッブル宇宙望遠鏡や、チャンドラ宇宙望遠鏡といった世界最高解像度の撮像が可能な大型天文望遠鏡による観測を導入し、木星オーロラの構造を網羅する事に成功しました。木星の周回探査を開始しようとしていたジュノー探査機を用いて、今まで困難だった木星付近の太陽風の変動を、探査機のその場で直接検出することにも成功しました。これらの観測により、太陽風や木星の自転・磁場エネルギーが、特定の条件下で磁気圏の外縁部に蓄積、開放され、プラズマを加速しながら、木星本体まで急速に輸送されている事を明らかにしました(詳細は研究成果参照)。私達が発見したエネルギー輸送経路の途中には氷衛星があり、エネルギーの一部を受け取っていると予想できます。

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図2. 私達が「ひさき」やハッブル宇宙望遠鏡の協調観測で明らかにした木星磁気圏のエネルギー輸送過程(理化学研究所プレスリリース

地下海の進化や、氷衛星表層―地下海間エネルギー輸送の解明に向けて、もう一つの鍵となるのが、プラズマが表層に照射されて、最高10億年程度にわたって、ゆっくりと表層物質の変化をもたらす「宇宙風化」です。今、私は、実験室実験において宇宙風化を再現して、実際の表層における、合成された物質の蓄積量や、プラズマが照射されてきた時間を推定しようとしています。これにより、地下海物質の表出年代や、地下海へのエネルギー輸送等を明らかにしようとしています。2030年代、JUICEが木星系に到着したあかつきには、我々の実験が高精度で検証・制約され、未解明の大問題だった地下海の発生年代や、地下海に存在するかもしれない生命が必要とするエネルギー等、生命環境としての本質が明らかになると考えています。

参考URL

研究成果

1. http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170523_1/

2. http://www.jaxa.jp/press/2016/03/20160323_hisaki_j.html

3. http://www.jaxa.jp/press/2015/03/20150325_hisaki_j.html

4. http://www.isas.ac.jp/feature/special_issues/hisaki/06.html

ひさき衛星

http://www.isas.jaxa.jp/home/sprint-a/

JUICE

https://juice.stp.isas.jaxa.jp/

学際科学フロンティア研究所

http://www.fris.tohoku.ac.jp/

(文責 宇宙地球電磁気学分野/学際科学フロンティア研究所 木村智樹 助教)

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