Topics 2020.07.03

超高解像度気象シミュレーション

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図1 台風全域の超高解像度シミュレーションにより再現された雲

 スーパーコンピューター(スパコン)の性能は年々進歩しており、TOP500という全世界のスパコンの性能のランキングでは、各国のフラグシップとなるスパコンにより、年々記録が塗り替えられています。2020年前期のランキングでは理化学研究所の「富岳」が世界第1位となりました(日本のスパコンとしては9年ぶり)。現代のスパコンは、多数の独立したコンピューターが、相互に通信しながら並列に計算することで、単体のコンピューターが取り扱えないような大規模な計算を可能にします。スパコン上で「超」高解像度の気象シミュレーションを実現し、その結果をもとにした研究を行っています。

空間をなるべく細かい格子に区切り、高解像度化すると、より正確な計算になり得ますが、計算量は急速に増大します(解像度をx倍にすると、空間と時間の4次元分のx4倍の計算量が一般には必要です)。天気予報のような未来を予測するための計算は、シミュレーション内部の時間経過より長い計算時間がかかってしまうと意味がありません。一方、研究のためのシミュレーションにはそのような計算時間の制約はありませんので、莫大な計算量が必要な「超」高解像度の計算も、高性能なスパコンを利用し長時間計算し続ければ実現できます。ただし、単一の計算で100テラバイトを超すような、膨大な出力データによりディスクの空き領域が不足すると、計算と解析がストップしてしまいます。データの取捨選択の戦略も重要になります。

そのような計算成果の一例を紹介します。思い切って水平解像度を100mとし、台風全体をカバーする超高解像度計算を富岳の1世代前の「京」コンピューターを利用して行いました(図1)。発達した台風の10時間分のシミュレーションに、半年ほどかかりました。この規模の気象シミュレーションの実施例は現在でも世界的にほとんどありません。

特に着目したのは、地表付近の大気の流れです。台風の風速が最大となるような半径付近の詳細な観測はこれまでありませんし、実施が容易でないことは想像に難くないと思われます。この領域はまったく未知であったため、シミュレーション結果が初めて表示はされた時は緊張しましたは。その結果、台風のより外側の半径では、半径により異なる3種類の流れの組織構造(ロール構造、と呼んでいます)の存在が明らかになりました(図2)。極端に強い地上風速はこのようなロール構造に伴い生じていました。

この台風のシミュレーション結果には他にも注目すべき点が多数あります。台風以外にも、線状降水帯、竜巻など極端気象のシミュレーションを行い、計算結果の解析をすすめています。

ちょうど東北大学のスパコンは今夏更新予定です。ペースの緩急はあれ、スパコンの能力は更新の度に向上しています。しかし、計算能力がx倍になったとしても、解像度は単純計算ではx1/4倍しか向上しませんので、高解像度化のみでは面白みがあまり無いかもしれません。計算能力の向上をどう活かすべきか、次の一手を思案しています。

参考文献:Ito, J., Oizumi, T. & Niino, H. Near-surface coherent structures explored by large eddy simulation of entire tropical cyclones, Sci Rep, 7, 3798 (2017).
https://doi.org/10.1038/s41598-017-03848-w

文責:伊藤 純至 准教授(流体地球物理学講座

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図2 地表面付近(高度27 m)の水平断面の鉛直速度。赤系が上昇流、青系が下降流、各図(a)、(b)、(c)は半径の外側から内側に向かう順。(c)の緑線で囲んだ領域は、高度10 mでの風速が55 m/s以上の領域。

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