Topics 2023.11.27

地殻内流体の移動と 2023年5月に能登半島北東部で発生した M6.5の地震

古くから、地震の発生に地殻内での流体の移動が影響している可能性が指摘されてきました。地殻内に存在する断層に水などの流体が浸入した際、その断層の強度が低下すると考えられるためです。近年の研究により、日本列島で実際に発生している地震群の中にも、地殻流体の移動に関係する例が少なからず存在していることが明瞭になってきました。本トピックでは、そのような最近の事例として、能登半島北東部の群発地震と 2023 年 5 月 5 日の M6.5 の地震 (図 1)について紹介します。

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1. 能登半島北東部の微小地震の移動 (Yoshida et al., 2023)。黒と灰色の星は 2023 5 月の M6.5 の地震と 2022 6 M5.4 の地震の震源を表す。丸の色は、2023 M6.5 の地震の断層帯における地震の発生順を示す (b の黒線から 1 km 以内。断層帯外の地震は 灰色)(a) 平面図。コンターは M6.5 地震のすべり分布を表す (単位は m)。挿入図の 四角は地図範囲を示す。(b) 断面図。黒線は、2023 M6.5 地震の主すべり域 (≥0.12 m)断面を示した位置とプロットした地震の範囲(a)内の実線と点線により示されている。(c) 地震の発生時と深さの関係。2023 M6.5 地震の断層帯で発生した地震のみを示している。

 

石川県能登半島の北東端部では、2020 年末頃から地震活動度が増加し、周辺域においては顕著な地表変位も生じていました。地震震源の精密推定の結果、この群発地震活動中には、 微小地震の震源が、複数の面構造に沿ってゆっくりと深部側から浅部側へと移動していたことがわかりました (1)。更に、この地震の活動域の直下には、地殻内の流体の集中域を表している可能性がある、地震波低速度・高電気伝導の領域と地震波の反射域が存在していることもわかってきました。

この群発地震活動中の 2023 5 5 日に、M6.5 の地震が発生しました。この地震は、それ以前までの群発地震活動域の最北端、2022 6 月に M5.4 地震も発生した南東傾斜の断層の上端付近で開始し、更に浅部側 (北方向)に伝播して大すべりを引き起こしました。 その後に引き続いた余震は、本震すべり域を取り巻くようにして、本震断層上の更に浅部で多く発生しました。このようにして、2020 年末頃に深さ約 18 km で開始した地震群は、深さ約 5km まで移動しました。この一連の地震活動・地殻変動は、地殻深部に蓄えられていた流体が断層構造を通って深部から浅部へとゆっくりと移動する過程で引き起こされた可能性が高いと考えられます。

この震源域周辺には、珠洲沖セグメントと呼ばれる活断層の存在が知られていましたが、余震分布から、今回の M6.5 地震が発生したのは、それより深部側に位置する異なる断層であることがわかりました (1a, b)。珠洲沖セグメントは、現在でも大きなひずみを蓄えた 状況にある可能性があります。

実は、今回報告されたような深部から浅部への地震発生域の移動は、近年、日本列島の異なる地域においても度々報告されています。例えば、2011 M9 東北地方太平洋沖地震後に東北日本内陸の山形-福島県境周辺で誘発された群発地震の特徴は、今回の活動のそれと非常によく似ています (2)。他にも、よく似た現象が、同じく東北地方太平洋沖地震後に仙台市大倉周辺や山形県月山付近で発生した群発地震活動の際や、2017 年に鹿児島湾で発生した M5.3 地震の発生の前にも報告されています。日本列島において、流体の地殻深部から浅部へ移動が、少なくない数の地震の発生に影響していることを示していると考えられます。今回の事例は、そのように始まった群発地震活動の中で、M6.5 規模の大地震も発生し得ることを示しています。 

(文責:沈み込み帯物理学分野 吉田圭佑)

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2. 山形-福島県境周辺の群発地震における微小地震の震源移動の例 (Yoshida & Hasegawa, 2018).色で東北地方太平洋沖地震からの経過時間を示している。(a): 平面図。黒線は (b)-(f)の断面図の位置を示す。破線は大峠カルデラの縁を表わす。(b)-(f): 鉛直断面図。主たる5つの断層毎に,地震の発生時期を色で示す。 

引用文献
Yoshida, K., & Hasegawa, A. (2018). Hypocenter Migration and Seismicity Pattern Change

in the Yamagata-Fukushima Border, NE Japan, Caused by Fluid Movement and Pore Pressure Variation. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123(6), 5000-5017. https://doi.org/10.1029/2018JB015468

Yoshida, K., Uchida, N., Matsumoto, Y., Orimo, M., Okada, T., Hirahara, S., et al. (2023). Updip Fluid Flow in the Crust of the Northeastern Noto Peninsula, Japan, Triggered the 2023 Mw 6.2 Suzu Earthquake During Swarm Activity. Geophysical Research Letters, 50(21). https://doi.org/10.1029/2023gl106023 

 

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