Topics 2024.04.16

日欧共同水星探査機BepiColombo:オーロラの源を創る水星コーラス波動を発見

図1_20240416.jpg

図1:水星朝側でのコーラス波動発生のイメージ図(水星画像:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)

 

水星探査機BepiColomboは、電子を強く散乱・加速する電磁波(コーラス波動)が水星の朝側領域で集中発生していることを2021年・2022年の水星最接近観測で初発見しました。この波動が水星へ叩き落とした高エネルギー粒子が、米水星探査機MESSENGERが発見した「水星表面で光るX線オーロラ」の源と考えられます(図1, Ozaki et al., 2023)。

水星は、地球と同じく磁場を持ち、磁場が支配する領域「磁気圏」を有します。地球のこの領域では、電磁波の一種「コーラス波動」が夜〜昼側に広く観測され、音にすると小鳥の鳴き声のように聞こえます (例: NASA Van Allen Probe観測https://youtu.be/SGjIJaMqnUI;  JAXA あらせ探査機観測 https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp  "ジオスペースの奏でる音")。あらせ衛星などによって、この可愛い波が低温の粒子を効率よく高エネルギーへ持ち上げ、放射線帯(ヴァンアレン帯)を創る一因となることがわかってきました。これによる急激な放射線量の増加は、我々の文明のインフラである人工衛星群に障害を引き起こすこともあります。

とはいえ、水星の磁場は地球の約1/100と弱い。このため、同様なメカニズムが働くかどうかはわかりません。

 

BepiColomboは日欧共同の探査機です。欧州の「Mercury Planetary Orbiter (MPO)」と日本の「Mercury Magnetospheric Orbiter (愛称:みお)」が合体した形で、水星への長旅の途上です。地球より内側を回る水星に迫るには、大減速を要します。2021年から始まった5回の水星最接近のたびに水星の重力を使って減速し、水星の軌道速度に近づいた後で満を持して2025年12月に水星周回軌道へ投入されます。

みお探査機には、東北大が率いる日欧共同開発の電磁波観測装置Plasma Wave Investigation(PWI)が搭載されました。これに相当する装置は、1970年代に水星へ3回接近した米Mariner 10探査機や2011〜2015年に周回探査を行った米MESSENGER探査機には無く、我々が「史上初観測」の栄誉を手にします。

長旅中のみお探査機は、MPOと合体中です。我々のPWIが擁する15-m x 4本の長大な電場アンテナは、周回軌道に入った後でみお探査機が分離して初めて展開できます。PWIは磁場センサーも擁しますが、同じく5-m長ブームの展開前。今は探査機の外壁直近にあり、探査機の大電流が磁場観測を邪魔します。

 

この不完全な状態ながら、我々は第一回(2021年)・第2回(2022年)の水星接近時に、水星で初めて数百Hz以上の電磁波を調べ、強いコーラス波動を発見しました(図2)! 地球では、あらせ衛星などでコーラス波とオーロラ発光に同期性が発見されています。コーラス波でかき乱された高エネルギーの粒子が磁力線に沿って落下し、極域の大気を様々な色で光らせる「オーロラ」を引き起こすため、と考えられています。

水星のコーラス波もこのような現象を起こすでしょうか。水星では、MESSENGER探査機が水星表面のX線放射を発見しています。我々が発見したコーラス波によってかき乱された高エネルギー粒子が、濃い大気の無い水星の地表に直接落下し、「X線のオーロラ」を光らせると考えられます。

地球と違った面もみつかりました。第1回・第2回の水星接近では、強いコーラス波動は水星朝側の限られた領域でのみ見つかっています(図2)。予想外の「局在性」には何か特有のメカニズムがあるはず。これまでの議論では、水星の大きくゆがんだ磁力線の形状が原因と考えています。水星の磁場は地球と比べて弱く、太陽から吹き付ける「太陽風」でより大きく歪みます。この2回のBepiColombo軌道では朝側が最も影響が小さく、あまり歪まないより丸い形状の磁力線となり、磁力線に沿って進みやすいことがコーラス波動の発生に効いたのではないか(図3)。

 

この解析は、PWIの磁場波動観測チーム(日本:金沢大・東北大・京大など、フランス:プラズマ物理学研究所など)で行いました。最接近観測では、他にも周辺密度の推定で成果を上げています(Griton et al., 2023)。2026年春からは始まる周回軌道上での本格観測で、水星の謎に取り掛かる日を楽しみにしています。

 

(文責:惑星プラズマ・大気研究センター 笠羽康正)

 

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図 2: 水星最接近中で観測されたコーラス波動。第1回(左: 23:36〜23:40)、第2回 (9:48〜9:52)とも、最接近をすぎたあとの朝側で数百〜2kHzの強い波が発見された。

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図 3: 水星最接近観測での水星からの距離、コーラス波動の強度、そして磁力線曲率の関係。緑色のより直線に近い「弱い磁力線曲率」に当たる朝側で、コーラス波動が強い。(提供:金沢大学、東北大学、京都大学)

 

<参照>

【プレスリリース (2023/9/20):  https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230915-12856.html

東北大理学研究科:水星の電子加速とオーロラの源を解く局所的なコーラス波動を発見! ~日欧協力で、水星磁気圏の電磁環境の一端が初めて明らかに

 

【この成果を公表した論文】

Ozaki, M., S. Yagitani, Y. Kasaba, Y. Kasahara, S. Matsuda, Y. Omura, M. Hikishima, F. Sahraoui, L. Mirioni, G. Chanteur, S. Kurita, S. Nakazawa, G. Murakami (2023). Whistler-mode waves in Mercury's magnetosphere observed by BepiColombo/Mio. Nature Astronomy, https://doi.org/10.1038/s41550-023-02055-0

 

【水星最接近観測での別な我々の成果論文】

Griton, L., K. Issautier, M. Moncuquet, F. Pantellini, Y. Kasaba, H. Kojima (2023). Electron density revealing the boundaries of Mercury's magnetosphere via serendipitous measurements by SORBET during BepiColombo first and second Mercury swing-bys. Astron. Astrophys. 670, A174. https://doi.org/10.1051/0004-6361/202245162

 

【BepiColombo、みお、PWIの紹介】

JAXA:水星探査計画「BepiColombo」https://www.jaxa.jp/projects/sas/bepi/index_j.html

JAXA宇宙科学研究所:水星磁気圏探査機「みお」 https://mio.isas.jaxa.jp/

「みお」搭載 電場・プラズマ波動・電波観測装置 PWI

https://www.isas.jaxa.jp/feature/mio/mio_09.html

 

 

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