Topics 2024.07.02

雑微動で探る大地震に伴う地下構造変化

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図1(A) 雑微動の相互相関関数を観測点間距離順に並べたもの。(B) 2つの地震前後での地下の地震波散乱係数変化の空間分布。紫色の領域で最も大きな変化が生じている。(C) 2つの地震前後での地下の地震波速度変化の空間分布。赤色の領域では地震に伴い地震波速度が低下している。

地震の無い時でも、地面は体には感じられないぐらい微かですが振動しています。この振動は世界中のあらゆる観測点で常に記録され、「雑微動」と呼ばれています。雑微動は「ノイズ」として、通常の地震の観測の邪魔をするものとみなされてきました。しかし、2つの観測点での雑微動記録の相互相関関数を計算することで、一方の観測点からもう一方へ伝播する地震波を抽出する方法が開発され、現在、世界各地で利用されています。

図1Aは東北地方の地震観測点における雑微動記録から計算した相互相関関数の波形を、観測点間距離順に並べたものです。横軸はラグタイムで、ラグタイム正の部分は一方の観測点からもう一方の観測点へと伝わる地震波形に対応し、ラグタイム負の部分は逆向きに伝播する地震波形に対応します。100 km以上離れた観測点ペアでも、2観測点間を伝わる地震波を抽出できていることがわかります。雑微動の相互相関関数は毎日計算することが可能です。このことは、同じ場所で起こっている地震のデータを毎日取得することができることを意味します。したがって、相互相関関数の伝わる速度の変化や波形形状の変化を調べることで、地下の状態を連続的に把握することができます。

Hirose and Wang et al. (2023)は、2008年岩手・宮城内陸地震(マグニチュード6.9)と2011年東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)の発生前後での地震波散乱係数と地震波速度という2種類のパラメータの時空間変化を推定することで、東北地方の地下構造がどう変化したのかを調べました。地震散乱係数は地下構造の不均質の強さを表す指標で、地震散乱係数が変化することにより観測される地震波の波形形状が変化することが知られています。地震波速度変化は地震波の走時変化から推定することができ、多くの先行研究で地震に伴い地震波速度が低下することが報告されています。Hirose and Wang et al. (2023)では、地震前後での相互相関関数の波形と走時の変化を観測点ペアごとに調べました。そして、地震散乱係数変化と地震波速度変化それぞれが生じている場所と変化量を観測された波形/走時変化を説明できるかを、理論モデルに基づき推定しました。

図1Bはそれぞれの地震直後に生じた地震波散乱係数の変化量の空間分布を示しています。2008年岩手・宮城内陸地震の場合,ピンクの星印で示している本震の震央周辺で地震波散乱係数が大きく変化しており,強い揺れによる地下構造が変化したことを捉えたと考えられます。一方,2011年東北地方太平洋沖地震の場合,強い揺れが観測された東北地方の太平洋沿岸部ではなく,内陸にある火山周辺で地震散乱係数が大きく変化しました(図1B中の点線で囲った領域)。磐梯山や森吉山周辺では,この地震後に流体移動に伴う群発地震が発生したことが先行研究により報告されていることから,この顕著な地震散乱係数の変化は,地下の流体が浅部へ移動したことにより引き起こされた、と推察されます。図1Cはそれぞれの地震直後に生じた地震波速度変化の空間分布を示しています。岩手・宮城内陸地震に伴う地震波速度低下が震源域の周辺で生じており、地震波散乱係数同様,強い揺れによる地下構造変化を捉えたと考えられます。一方、東北地方太平洋沖地震前後では広域で地震波速度低下が生じています。地震波散乱係数の場合とは異なり、内陸部の火山周辺だけでなく太平洋沿岸部にも変化域が広く分布していることがわかります。

大地震に伴う広範囲での地震波散乱係数変化と地震波速度変化の両方をモニタリングで捉え、空間分布を直接比較したのは、Hirose and Wang et al.(2023)が初めてです。捉えられた変化が実際に地下で起こっているどういった現象に起因しているのかを、これら2種類のパラメータ以外の他の観測データも活用しながら詳細に調べていくことで、将来的には地震や火山噴火に先行する現象の検出につなげたいと考えています。

参考文献:Hirose, T., Wang, Q.Y., Campillo, M. & Nakahara, H., 2023. Time-lapse imaging of seismic scattering property and velocity in the northeastern Japan. Earth Planet. Sci. Lett., https://doi.org/10.1016/j.epsl.2023.118321.

文責:固体地球物理学講座 廣瀬 郁 助教

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