Topics 2025.05.16
北極域における大気上端の上向き短波放射量の年々変動
図1.北極域における大気上端の上向き短波放射量の年平均値の変動。黒線で北極全域、青線で北極海域、オレンジ線で北極陸域を示しています。(Amma and Hayasaka 2023の図の一部を変更)
地球は、太陽から地球に入射するエネルギーの一部を宇宙に反射し、その他を吸収します。このエネルギーが地球の気候を決める上で重要な要素といえます。太陽が放出しているエネルギーを短波放射(太陽放射)と呼びます。地球に吸収される短波放射量は、大気上端の下向き(太陽から地球に入射する)短波放射量と大気上端の上向き(地球で反射される)短波放射量で決まります。この研究では、大気上端の上向き短波放射量に注目して見ていきます。大気上端の上向き短波放射量は、大気(雲、エアロゾルなど)と地表面(海氷、積雪、植生など)の影響を受けます。
北極域では、海氷、積雪面積の減少などの顕著な気候変動がみられています。このような北極域では、大気上端の上向き短波放射量はどのような変化をしているのでしょうか?海氷、積雪は反射率が高く、海氷、積雪の変化は大気上端の上向き短波放射量に影響を与えます。それらに加えて、雲も大気上端の上向き短波放射量の変動に影響を与えます。また、北極域では入射する短波放射量の季節変化が大きいため、月によって、海氷、積雪、雲などの変化が大気上端の上向き短波放射量に与える影響が異なると考えられます。そこで、月ごとの変化に注目して、北極域における大気上端の上向き短波放射量の年々変動とその要因を調べました。短波放射量は衛星観測データを使用し、解析期間は2001年から2020年までとしました。
図1は、北極域における大気上端の上向き短波放射量の年平均値の変動を示しています。北極全域では、2001年から2012年まで減少トレンド、その後、トレンドはなく、年々変動の振幅が大きくなっています。また、海域と陸域に分けた解析も行いました。海域と陸域においても、2012年前後で、減少トレンドから年々変動の振幅が大きく変化しています。
次に、月ごとの大気上端の上向き短波放射量の変動を見ていきます。図2は、海域、陸域の大気上端の上向き短波放射量の月平均偏差を示しています。ここでの月平均偏差とは、各月の解析期間の平均値との差を表します。つまり、値の絶対値が大きいほど、変化が大きいことを意味します。大気上端の上向き短波放射量は、海域で6月と7月に、陸域で5月から7月に変化が大きいことが分かります。海氷、積雪、雲特性の変動と比較したところ、大気上端の上向き短波放射量の変動は、海域では、6月、7月の海氷、陸域では、5月、6月の積雪、6月、7月の雲特性の変動と関連することが分かりました。
図2.北極海域、陸域における大気上端の上向き短波放射量の月平均偏差。(Amma and Hayasaka 2023の図の一部を変更)
この研究では、春と夏の海氷面積と積雪面積、夏の陸域の雲特性が、北極域の大気上端の上向き短波放射量の変動要因であることを示しました。地球全体の短波放射量の変動という観点では、今後、他の領域についても詳細な解析が必要といえます。
この内容は、Amma and Hayasaka (2023)をもとにして、まとめたものです。
Reference:
Amma, M. and T. Hayasaka, 2023: Interannual variation in top-of-atmosphere upward shortwave flux over the Arctic related to sea ice, snow cover, and land cloud cover in spring and summer, J. Climate, 36, 5163-5178, https://doi.org/10.1175/JCLI-D-22-0440.1
元学術研究員(現 ミシガン大学所属) 安間 碩成 (大気海洋変動観測研究センター 気候物理学分野)