Topics 2026.01.03

全マントルトモグラフィーで探るスラブの下の熱い流れ

地球物理学専攻の固体地球系領域(A領域)沈み込み帯物理学分野では,地震波トモグラフィーと呼ばれる手法を用いて,従来はあまり注目されてこなかった沈み込み帯深部の構造を調べています. 

 地震波トモグラフィーは,地球内部の詳細な3次元画像を得ることができる手法で,原理は人体のCTスキャンに似ています
(トピックス#13,https://www.gp.tohoku.ac.jp/research/topics/20160803101532.html).沈み込み帯を対象としたトモグラフィーでは,①沈み込んだプレート(=スラブ)に対応する高速度構造,②スラブの上に存在する,島弧マグマの形成に関わる低速度構造,③スラブの下に広がる低速度構造,という三つの特徴が普遍的に見られます(図1).

しかし,このうちスラブ下の低速度構造については,長らくあまり注目されていませんでした.従来の研究の多くはマントル遷移層より上(深さ660 km以浅)に解析範囲が限られており,この構造を高い信憑性をもって解像することや,どの深さまで続いているのか明確にすることが難しかったためです. 

 この問題に新たな視点を与えているのが,全マントルを対象とした高分解能な地震波トモグラフィーです.私たちの分野では,対象地域の地表から核-マントル境界(深さ2,900 km)までの全地殻・マントルを,一体として高分解能で調べられるトモグラフィー手法を開発しました(=マルチスケール・グローバルトモグラフィー法)(Zhao et al., 2017).

東南アジアを対象とした解析結果からは,スラブ下の低速度が下部マントルから連続している様子が明瞭にイメージされました (Toyokuni et al., 2022)(図2).これは下部マントルから上昇する高温のマントルの流れと考えられます.スラブは通常,マントル遷移層に滞留し,断続的に下部マントルへと落ち込みます.スラブ下の低速度構造は,こうした落ち込みに伴う反流としての高温マントルの上昇流が,スラブ直下に捕捉されて形成された,という新たな解釈が示されました.

さらにスラブには穴が存在し,スラブの下の高温物質が,スラブの穴を通して島弧マグマと混合している様子も見てとれます.注目すべき点は,巨大噴火を起こした火山が,こうしたスラブの穴の直上やごく近傍に存在することです.これは巨大噴火の背景に,下部マントルからのエネルギー供給が関与している可能性を示しています (Toyokuni et al., 2022).

日本周辺,特に千島弧においても同様の特徴が確認されました.沈み込む太平洋プレートには複数の穴が存在し,その下から上昇する熱いマントル物質が,島弧マグマと混合していると考えられます (Toyokuni et al., 2025)(図3).私たちは,地中海,ニュージーランド,南米など,世界の様々な沈み込み帯で同じ特徴を見つけました.こうした結果は,巨大噴火を局所的現象としてだけではなく,スラブの構造や深部マントルからの熱い上昇流が結びついた,地球規模の現象として捉える必要性を示しています.

さらに,本手法に地震波の異方性(トピックス#13)を取り入れることで,マントルがどの方向に流れているのかも可視化できるようになりました (Toyokuni et al., 2025) (図4).これにより,沈み込んだスラブの分断や変形,それに応答するマントルの流れといった,動的なプロセスも解明されつつあります.

スラブ下の低速度構造は,浮力や熱,水分の供給を通じてスラブの力学状態に影響を与え,地震発生にも関わっていると考えられます.スラブ下の低速度は,それ単独で災害を引き起こす原因にはならなくても,沈み込み帯で起こるさまざまな地震・火山現象を左右する重要な要素の一つと考えられます.下部マントルまで視野に入れたトモグラフィーは,こうした現象を,より深く,より統一的に理解するための重要な手がかりとなります.

参考文献
Zhao, D., M. Fujisawa & G. Toyokuni (2017) Tomography of the subducting Pacific slab and the 2015 Bonin deepest earthquake (Mw 7.9). Sci. Rep. 7, 44487.https://doi.org/10.1038/srep44487

Toyokuni, G., D. Zhao & K. Kurata (2022) Whole-mantle tomography of Southeast Asia: New insight into plumes and slabs. J. Geophys. Res. Solid Earth 127, e2022JB024298. https://doi.org/10.1029/2022JB024298

Toyokuni, G., D. Zhao & D. Takada (2025) Whole-mantle isotropic and anisotropic tomography beneath Japan and adjacent regions. J. Geophys. Res. Solid Earth 130, e2024JB029593. https://doi.org/10.1029/2024JB029593

(文責 固体地球系領域 沈み込み帯物理学分野 豊国源知准教授・趙大鵬教授)

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図1. 沈み込み帯のトモグラフィーで見られる一般的な特徴.上部マントル以浅を断面図で示す.青色は高速度域,赤色は低速度域.沈み込むスラブは冷たく,高速度域としてイメージされる.スラブの上には,島弧マグマの形成に関わるスラブ上低速度(above-slab low-velocity anomaly, ALVA)が存在する.またスラブの下にも通常,スラブ下低速度(sub-slab low-velocity anomaly, SLVA)がイメージされる. 

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図2. 東南アジア・ジャワ島西部下のスラブの穴付近を通る,トモグラフィー結果の3つの断面図 (Toyokuni et al., 2022).沈み込んだ青色のオーストラリアスラブが,深さ300~400 km付近で途切れて,スラブに穴が開いている.断面の位置は右下の平面図に示す.平面図には深さ370 kmにおけるトモグラフィー結果も表示しており,点線で囲った部分がスラブの穴の位置.△は活火山で,このうち最近巨大噴火を起こしたものを平面図では黄色で大きく表示した.丸◦は断面から±1°の範囲で発生した震源分布.

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3. カムチャツカ半島付近の千島沈み込み帯を通るトモグラフィー結果の5つの断面図 (Toyokuni et al., 2025). A-A'断面,C-C'断面,D-D'断面には,沈み込んだ青色の太平洋スラブが,深さ400 km付近で途切れて,スラブに穴が開いている様子が見える.断面の位置は下の平面図に示す.平面図には深さ400 kmにおけるトモグラフィー結果も表示しており,スラブの穴が赤色で見えている.△は活火山,丸◦は断面から±の範囲で発生した震源分布.スラブの穴付近では地震発生数も少ない.

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図4.地震波速度異方性も考慮したトモグラフィー結果の4つの東西断面図 (Toyokuni et al., 2025).A-A'はユーラシア大陸と北海道の北を通る断面,B-B'は朝鮮半島と東北地方を通る断面,C-C'は関東地方を通る断面,D-D'は南西諸島と伊豆-小笠原弧を通る断面.断面の位置は下の平面図に示す.△は活火山,丸◦は断面から±1°の範囲で発生した震源分布.異方性の振幅は棒の長さ,速度が速い方向(≒マントルの流れの方向)は棒の向きで示す.縦棒は南北方向,横棒は東西方向の流れ.D-D'断面では下部マントルに落ち込むスラブの残骸が,東西方向の流れ(赤丸部分)によって2つの部分に分かれている様子が見て取れる.

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